特別な会社見学
しぼんだままの大きな気球を、会社の駐車場に横たえ広げます。
Peter Blaser は、2名のアシスタントと一緒にバスケットを組み立て、4本のガスボンベをセットし、2本の大きなファンで空気を送り気球を膨らませます。
わずか5分あまりで、青と白でデザインされた熱気球は大きく膨らみ空に飛び立てるようになります。
Peter Blaser は、ここでは肩書きのない “Peter” となり、ハスレリュグソウの空にバルーンを浮かべます。
片手でガスバーナーを操作し気球にガスを送り込み、もう片方の手では気球の天井部分から熱を逃がして調整します。
「どこへ行くのですか?」
「ここに戻ってくるさ」
Peter は続けます。
「でも、気球に乗っていたらどこに着地するかなんて確かなことはわからないけれどね」
確かにそうかもしれません。
けれど、Peter はどこに着地するのか分かっているようにみえます。
彼は35年に渡ってブラザー・スイスルーブのトップとしてチームを導き、現在は取締役会長を務めています。熱気球を飛ばす時、Peter は天候を注意深く調べます。ビジネスも同じです。風向きをよく観察します。そうしてスイスの金属加工油サプライヤーとして、世界60カ国で販売される金属加工油メーカーに成長したのです。
「飛行時間はどのくらいですか?」
答えは分かっていましたが、ピーターに聞いてみました。
「1時間くらいかな。正確にはそれもわからないけれど」
熱気球はブラザー・スイスルーブの工場上空を旋回しています。まるで鳥の視点から工場ツアーをしているようです。
不安はありません。Peter はスイスの選手権に何度も出場し、ヨーロッパ大会でも優勝経験があるのです。
街はまだ眠っていて、ガスの音に犬が吠えているだけです。Peter は、高度を上げ、風と戯れ始めました。
「最初は自分で操縦したいなんて思っていなかったんだ。だけど最初の飛行ですっかり魅了されて、こうしてパイロットになったんだ」
現在、会社のロゴを入れた熱気球はどんどん数を増やし世界中の空を飛んでいます。
社内のチームも70名を超え、アメリカのブラザー・スイスルーブでもチームが発足しました。
時には、長年ご利用いただいてるお客様や従業員を招待して一緒に熱気球飛行を楽しむこともあります。熱気球は、イメージ広告としてだけでなく、従業員のモチベーションの維持とお客様との関係強化をも可能にしています。
Peter は、高度を2000メートルまで上げました。雪に覆われたアルプスの山々は朝日を浴びて金色に輝き、まるで模型のように美しい景色が見えます。Peter はここで未だ見ぬ新しい世界への期待を膨らませていました。様々な高度で空を旅し、ハスレリュグソウに戻ってきた熱気球は、大きく弧を描いて出発地にぴったり1時間後に着陸しました。
自身も熱心な熱気球のパイロットで現在のCEOである Marc Blaser は会社の信条についてこう述べています。
「たくさんのことは約束できない。しかし、方向性を見失わないようにしながら出来る限り多くを届けなければならない」